コーチ石川の感動日記

106.ただ聴いてほしいだけ

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 “ここまでで、何かご質問はありませんか?” 研修の要所要所で一応、訊ねます。問題意識を持って参加されている方が多い研修ほど、質問が出て、先に進まなくなります。以前は、準備していたカリキュラムが時間通りに消化できないことにイラだったりしていましたが、今は、かえって、ありがたく思います。参加された方の一番知りたいことを扱う。これが、研修の目的だと思うからです。

 「はい、ちょっといいですか?」 朝からひときわ熱心に参加されていた方がまた手を挙げられました。
「部下のことではなく、私の上司のことなのですが・・・」 比較的若い階層のコーチング研修では、この手の質問が非常に多いのです。部下との関わり方よりも上司との関わり方に悩んでいらっしゃる方が多いようです。

 「私の上司が、話を聴いてくれないんです。途中経過をごちゃごちゃ聴かされるのがイヤなタイプなんです。“結論だけを報告しろ!”と言われるので、そうすると、途中で、何かマズイことがあった時、“どうして最初にその経過を報告しなかったんだ?”って言われるんです。こういう上司にはどうしたらいいんでしょうか?」

 ここで、私なりの回答を示すのも一つですが、それが、この方の望む回答なのかはわかりません。私はコーチなので、つい質問をしてしまいます。
“例えば、どんな時にそうなのですか?”
“他にどんな言い方があるんでしょうね?”
私の質問に真剣に答えてくださっているのですが、困っている現状の話ばかりです。正直、私自身もこれ以上、どんなアプローチをしたら、この方の満足いく回答を導き出せるのかわからなくなりました。このままでは収集がつかず、先に進めません。
 
 私は、感じたままのことを伝えました。
“あの、○○さんが話されているのを聴いていて、上司にどう報告したらいいのかということよりも、上司に自分の立場を認めてもらいたいというふうに聴こえました”
「あ、そうです、そうだと思います。そうなんです」
次の瞬間、「今、思ったんですけど、誰かにどうこうしてほしいってわけじゃないんですね。こうしたほうがいい、というアドバイスを求めて、質問したんじゃない。ただ、聴いてほしかっただけだったんですね。自分が今、こういう状態だっていうことを」

 不思議なものです。ここでこの方が投げかけた質問の答えは全く出ていないのですが、どこかすっきりした表情をなさいました。「わかりました。ありがとうございました」。
何がどう収集したのかわからない質疑応答でしたが、私もライブ研修の醍醐味を味わっていました。

 ただ言ってみただけ。ただ聴いてほしいだけ。今、感じていることを知ってほしいだけ。自分の気持ちを受け止めてほしいだけ。
そう思っている人は、周りにもたくさんいるはずです。下手なアドバイスや説教は別に要らないんです。ただ聴けばいいんです。それで、前に向かえる時があります。

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