コーチ石川の感動日記

109.最後の桜かもしれない

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 札幌の雪どけも進みました。本州では、すでに桜が咲いているところがあるようですね。春まで、もう一息!というところです。

 私が「ナースの中のナース」と、日頃から尊敬するKさんが、こんな手記を送ってくださいました。以前から、看護の傍ら、日々感じたことを書き留めていらっしゃるそうです。
水分制限がある患者さんにそんなことしていいのかい?! でも、本当の看護って何だろう? と考えさせられました。Kさんにご快諾をいただきましたので、掲載させていただきます。

 もし、入院するようなことがあったら、こんな看護師さんにそばにいてほしい、と私は思います。
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 Sさんは、昨年CABG(心臓バイパス手術)をした70代の患者様です。心臓の機能は問題ないのですが下肢にコレステロールによる塞栓が起こり、壊死を起こしています。切断も必要ですが、そうすると心臓が耐えられません。保存・対症療法しかありません。

 そんなSさんが退院し、地元の病院に転院しましたが数ヵ月後、いろいろな科をたらい回しにされ、行き場を失って私の病棟に戻ってきました。正直「なんで?! うちに来たって何もできないのに・・・」そんな気持ちでいっぱいでした。

 朝一で地元の病院でムンテラを受け、到着したのは夕方近くでした。外来で、偶然Sさんに会った時、奥さんの顔を見た途端に「なんで?!」の気持ちは吹っ飛びました。「うちしかないんだなぁ~この人たちには」あきらめとは違う不思議な気持ちでした。

 主治医に「Dr,正直言って‘なんでさっ!’と思ったけど、奥さんのあの顔見たら、うちしかないんだなぁ~。もしかしたら、Sさんの死に場所はここなのかもしれない・・・と思ったよ」と言いました。主治医は、苦笑しながらうなずいていました。

 年齢的なもの・病態的なもの・精神的にもバランスは崩れ、徐々に弱ってきました。当院に一生入院しているのは無理であり、転院先を捜していました。転院先の目途は立ってきましたが、やはりSさんは弱ってきています。はやいとこ転院できても、来年の桜を見せてあげる自信は、私にはありません。せめて、天気のいい今日、桜を見せたい!そう思い、Sさんを誘い半ば強引に外へでかけました。はじめ、ムッとしていましたが、桜を目の前にして「よく、咲いたなぁ~」と目を細めていました。
 
 私は‘花見と言えば・・・(と薬杯を取り出し、オロナミンCを注ぎました)。水分制限があるSさんですが‘内緒だよ’と秘密にしました。「うまいなぁ~。桜を見ながらは又、格別だ」と喜んでくれました。これが最後の桜かもしれない。大好きな家族じゃなくて、私と花見が最後かもしれないと思うと申し訳ない気持ちもしました。でも、この桜を絶対に忘れてほしくない・・・そう思いました。

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